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Google Workspaceを自治体に導入するメリットは?導入事例・注意点・進め方を解説

Google Workspaceを自治体に導入するメリットは?導入事例・注意点・進め方を解説

自治体では、紙資料の作成、庁内照会、会議調整、ファイルサーバ中心の情報共有など、日々の業務に多くの時間を要しがちです。こうした課題の解決手段として、Google Workspaceを庁内のコラボレーション基盤に採用する自治体が増えてきました。

札幌市では庁内16,000ユーザー向けの全庁導入が進み、足利市ではLGWAN端末からのローカルブレイクアウト接続、宮崎市ではGoogle Cloudソリューション全体で働き方改革を進めています。

本記事では、自治体がGoogle Workspaceを導入するメリット、国内事例、導入前の注意点、セキュリティ・法令対応、エディションの選び方、導入手順までを、自治体担当者向けに解説します。

Google Workspaceを導入している自治体の事例一覧

国内では、政令指定都市から町村まで、さまざまな規模の自治体がGoogle Workspaceを導入しています。ここでは、Google公式が紹介している国内自治体の事例を一覧で整理しました。自団体の規模や導入目的に近いケースを参考にしてください。

自治体規模・導入範囲主な特徴事例からわかること
札幌市庁内16,000ユーザー政令指定都市での全庁導入大規模自治体でのクラウド型コラボレーション基盤の導入
秋田県県庁規模での導入ChromeOS、Chromebook、Google Workspaceなどを活用県庁規模での働き方改革と合意形成
足利市約1,500名にアカウント発行LGWAN端末からローカルブレイクアウトで接続三層分離環境でのクラウド活用
宮崎市Google Workspaceを含むGoogle Cloudソリューションを採用ペーパーレス化・テレワーク・端末運用改善段階導入と端末管理を含めたDXの進め方
舞鶴市約1,100人の職員対象Google WorkspaceとGeminiを全職員で利用生成AIも含めた庁内DXの進め方
肝付町Google Workspace Enterprise Plusなどを全庁導入ChromebookやBeyondCorp Enterpriseと組み合わせて導入中小自治体でのフルクラウド化

札幌市|庁内16,000ユーザーでGoogle Workspaceを全庁導入

札幌市は、政令指定都市での大規模導入事例として代表的なケースです。個人番号利用事務を除く業務用端末のネットワーク移行に伴い、庁内16,000ユーザーが利用するグループウェアとしてGoogle Workspaceを採用しました。

ポイントは、すべての業務をGoogle Workspaceに載せたわけではなく、個人番号利用事務系を除いた領域でコラボレーション環境を統一したという点。基幹系と切り分けた上で、全庁規模のクラウド型コラボレーション基盤を整備した好例といえます。

数万人規模の職員を抱える大都市でも、Google Workspaceを軸にした庁内DXが現実的な選択肢になることを示す事例です。

参考:Google Workspace公式ブログ「札幌市の導入事例」

秋田県|ChromeOSやGoogle Workspaceを活用し、県庁DXを推進

秋田県は、ChromeOS、Chromebook、Chrome Enterprise Premium、Google Workspaceの導入を決定した県庁規模の事例です。

特徴は、単なるツール導入ではなく、場所にとらわれない柔軟な働き方や、若手職員が主役となる新しい組織文化づくりを目的に位置づけた点。クラウド端末とコラボレーション基盤、ゼロトラスト型のアクセス制御をあわせて採用することで、県庁規模での働き方改革を進めています。

都道府県レベルで、端末・ネットワーク・コラボレーションを一体で見直すアプローチを検討する際の参考になります。

参考:Google Workspace公式ブログ「秋田県の導入事例」

足利市|LGWAN端末からローカルブレイクアウトで接続

足利市は、三層分離モデルを前提とした自治体ならではの構成を取った事例です。LGWAN系ネットワークの課題を踏まえ、LGWAN端末からローカルブレイクアウトでGoogle Workspaceに接続する方式を採用しました。

導入にあたっては、約半年のPoC(実証実験)や職員向けトレーニングを経て運用を開始し、約1,500名にアカウントを発行しています。利用サービスにはGoogle Workspaceに加え、Google Apps ScriptやAppSheetも含まれており、コラボレーションだけでなく業務アプリ開発にも踏み込んでいる点も特徴です。

「LGWANから直接Google Workspaceに接続する」のではなく、ローカルブレイクアウトを使った構成設計が前提になっている点は、同様の検討を進める自治体にとって重要な参考材料といえます。

参考:Google Workspace公式ブログ「足利市の導入事例」

宮崎市|Google Cloudソリューションの採用で働き方改革を推進

宮崎市は、テレワーク、電子申請、ペーパーレス化などのDX推進の一環として、Google WorkspaceをはじめとするGoogle Cloudソリューションを採用しました。

利用サービスには、Google Workspace、Chromebook、BeyondCorp Enterpriseが含まれており、コラボレーション基盤・端末・ゼロトラスト型アクセス制御を組み合わせた構成。これにより、ペーパーレス化や端末運用負荷の軽減、職員の働き方の柔軟化を一体的に進めています。

Google Workspace単体での効果というより、Google Cloudソリューション全体として段階的にDXを進めた事例として参考になります。

参考:Google Workspace公式ブログ「宮崎市の導入事例」

舞鶴市|Google WorkspaceとGeminiを全職員で利用

舞鶴市は、正職員・会計年度職員を合わせた約1,100人を対象に、ChromeOS、Chrome Enterprise Premium、Google Workspace、Geminiを採用した事例です。Google WorkspaceとGeminiを全職員で利用する形で、「日本一働きやすい市役所」を掲げた働き方改革を進めています。

特筆すべきは、生成AIであるGeminiを全職員利用の対象に含めている点。コラボレーション基盤の刷新だけでなく、文案作成や情報整理に生成AIを活用する前提で導入計画が組まれています。

生成AI活用を含めた新しい自治体DXの方向性を考えるうえで、注目度の高い事例です。

参考:Google Workspace公式ブログ「舞鶴市の導入事例」

肝付町|中小自治体でのフルクラウド化事例

鹿児島県の肝付町は、Google WorkspaceをはじめとするGoogle CloudサービスとChromebookを全庁に導入した事例です。利用サービスとして、Google Workspace Enterprise Plus、BeyondCorp Enterprise、Chromebookが紹介されています。

ポイントは、政令指定都市や中核市ではない中小自治体でも、フルクラウド化に踏み切れることを示している点。コラボレーション基盤・端末・ゼロトラスト型アクセス制御を組み合わせて、セキュアでペーパーレスな庁内環境を整備しています。

職員数が数百名規模の自治体でも、フルクラウド型の庁内システムを検討する余地があることを示す事例として参考になります。

参考:Google Workspace公式ブログ「肝付町の導入事例」

自治体がGoogle Workspaceを導入するメリット

ここでは、Google Workspaceの個別機能の説明ではなく、自治体業務の課題に紐づけたメリットを整理します。会議運営、庁内照会、情報共有、BCP、端末管理、生成AI活用など、自治体特有のテーマに沿って解説します。

会議資料・議事録・庁内照会の作成時間を短縮しやすい

自治体業務では、会議資料の作成、議事録のとりまとめ、各課への庁内照会、回答の集約など、文書のやり取りが多く発生します。Googleドキュメント、スプレッドシート、スライドの共同編集機能を使えば、メール添付・回収・マージといった作業を大きく減らせます。

たとえば庁内照会では、表をスプレッドシートで共有し、各課が直接回答を書き込む運用が可能。メールで集めて手作業でマージする工程を省略でき、回答状況もリアルタイムで把握できます。

会議資料についても、複数人で同じファイルを同時編集できるため、開催直前の差し替えや議事録のドラフト作成にかかる時間を短縮しやすくなります。

紙・印刷・移動にかかる間接コストを見直せる

紙資料の印刷、ホチキス留め、配布、差し替えといった作業は、自治体業務で長く続いてきた習慣の一つ。Google Workspaceを軸に、会議のオンライン化やペーパーレス運用を進めることで、こうした間接コストの見直しにつながる場合があります。

Google Meetを使えば、出先機関や支所との会議を移動なしで開催可能。Googleドライブで資料を共有すれば、印刷物の配布や差し替えに伴う作業も削減できます。

宮崎市や肝付町のように、Google WorkspaceとChromebookを組み合わせて段階的にペーパーレス化を進めている事例も参考になります。

部局をまたいだ情報共有を進めやすい

自治体では、部署や課ごとに情報がサイロ化しやすい構造があります。Google Chat、Google Meet、共有ドライブ、Googleカレンダーをあわせて使うことで、部局横断のプロジェクトや庁内連絡をスムーズにしやすくなります。

共有ドライブを使えば、ファイルが個人PCやローカルサーバに埋もれる状況を減らせます。職員の異動時にも、業務ファイルが特定の個人に依存しない形で引き継ぎやすくなる点もメリット。

ただし、フォルダ設計や文書管理規程は自治体側で整える必要があります。Google Workspaceを入れるだけで文書管理が自動的に整うわけではない点には注意してください。

庁舎外や災害時でも業務を継続しやすくなる

BCP(事業継続計画)や災害対応の観点でも、Google Workspaceはコラボレーション基盤として有効です。ブラウザがあれば庁舎外でもメール・ドキュメント・会議に対応できるため、在宅勤務、出張先、災害時の臨時拠点などからも業務を続けやすくなります。

オンプレミスのファイルサーバや庁舎内のグループウェアを前提にしていると、災害時に庁舎が使えなくなった場合の業務継続が難しくなりがち。クラウド型のコラボレーション基盤に移すことで、市民サービスを止めにくい体制を整えやすくなります。

ただし、「どこからでも自由にアクセスできる」と単純化はできません。多要素認証、端末管理、アクセス制御、ログ監視をセットで設計することが前提になります。

ChromeOSなどと組み合わせると端末管理の負担を減らせる場合がある

Google Workspace単体ではなく、ChromebookやChrome Enterpriseと組み合わせることで、端末管理の運用負荷を下げられる場合があります。

具体的には、端末の初期設定(キッティング)、OS更新、紛失時の遠隔ロック・ワイプといった作業を、クラウド管理コンソールから一元的に行える点が利点。宮崎市や肝付町のように、Google Workspaceと端末管理を組み合わせて運用改善につなげている自治体もあります。

このメリットはGoogle Workspace単体ではなく、Google Cloudソリューション全体としての効果である点には注意してください。

GeminiやAppSheetを組み合わせると定型業務の省力化にもつなげられる

Google Workspaceに含まれる、または契約内で利用可能なGeminiやAppSheetを活用することで、文案作成、要約、議事録作成補助、ノーコードでの業務アプリ作成などにも取り組めます。

足利市では利用サービスにAppSheetが含まれており、ノーコードでの庁内業務アプリ開発にも踏み込んでいます。舞鶴市ではGeminiを全職員利用の対象に含め、生成AIを前提とした働き方を進めています。

ただし、生成AIを使う場合は、入力してよい情報の範囲、出力結果の確認フロー、職員向けの研修・利用ガイドラインをセットで整備する必要があります。住民対応に使える時間を増やすための支援ツールとして位置づけるのが現実的です。

自治体でGoogle Workspaceを使う前に確認したい注意点

Google Workspaceの導入を検討する際は、自治体特有の業務構造やネットワーク要件を踏まえて、事前に整理しておくべき論点があります。ここでは、導入後にトラブルになりやすいポイントを5つに整理しました。

基幹住民系システムの置き換えとして考えない

Google Workspaceは、メール、チャット、Web会議、文書作成、ファイル共有といったコラボレーション基盤を提供するサービスです。住民基本台帳、税、福祉、マイナンバー利用事務などの基幹住民系システムを置き換えるものではありません。

導入検討の初期段階では、「Google Workspaceに何を載せ、何を載せないか」を明確に切り分けることが重要なポイント。まずは会議運営、庁内照会、資料作成、スケジュール調整、ファイル共有など、コラボレーション領域から検討するのが現実的です。

札幌市が個人番号利用事務系を切り分けて導入したように、基幹系との分離を前提に計画を立ててください。

LGWAN・三層分離との接続方式を確認する

自治体ごとにネットワーク構成は異なります。LGWAN系、インターネット接続系、マイナンバー利用事務系の三層分離をどう前提に置くか、どこからGoogle Workspaceに接続するかを最初に整理する必要があります。

足利市のように、LGWAN系端末からローカルブレイクアウト用の回線を付設してGoogle Workspaceに接続するケースもあれば、インターネット接続系から接続するケースもあります。αモデル、βモデル、β'モデルといった三層分離の運用形態によっても、適切な接続方式は変わるため、自団体のネットワーク構成と情報セキュリティポリシーを踏まえた個別設計が必要。

ネットワーク設計はGoogle Cloudの正規パートナーや、自治体ネットワーク構築の実績があるベンダーと連携して検討するのが現実的です。

既存グループウェアやファイルサーバとの役割分担を決める

Google Workspace導入時には、既存のグループウェア、ファイルサーバ、文書管理システム、電子決裁システム、庁内ポータルとの役割分担を整理する必要があります。

確認しておきたい論点は次のとおりです。

  • 既存グループウェアのどの機能をGoogle Workspaceに置き換えるか
  • ファイルサーバ上のデータを、どこまでGoogleドライブに移行するか
  • 電子決裁システムや文書管理システムとの連携方針
  • 庁内ポータルとの統合・併存の判断
  • 既存システムと並行稼働する期間の設定

すべての機能を一度に置き換える必要はありません。並行稼働期間を設けて、段階的に移行する考え方が現実的です。

ファイル共有ルールを決めないと情報が散らばりやすい

Google Workspaceを導入すると、職員が気軽にファイルを作成・共有できるようになります。便利な反面、ルールを定めずに運用を始めると、情報がドライブ内に散在し、検索性や統制が損なわれるリスクも。

導入前に整理しておきたいルールは以下のとおりです。

  • マイドライブと共有ドライブの使い分け
  • 共有ドライブのフォルダ設計と命名規則
  • 外部共有の可否、共有可能な範囲
  • 異動・退職時のデータ管理(共有ドライブへの集約方針など)
  • 管理者権限の付与範囲と、部局ごとの運用ルール

文書管理規程や情報セキュリティポリシーと整合性を取ったうえで、運用ルールを定義しておくことが重要です。

生成AIの利用は入力ルールと研修をセットで進める

舞鶴市のように、Geminiを全職員利用の対象に含める自治体も出てきています。一方で、生成AIを業務利用する場合は、入力ルールと職員研修をセットで進める必要があります。

ステップ1:入力してよい情報・してはいけない情報を整理する

住民情報、個人情報、未公開情報、機微情報などを、入力禁止情報として明確に定義します。

ステップ2:出力結果の確認フローを定める

生成AIの出力をそのまま使わず、職員が事実関係を確認したうえで業務に反映するプロセスを設計します。

ステップ3:職員向けの研修・FAQ・利用ガイドラインを整備する

管理職、一般職員、新任職員それぞれに必要な研修内容を整理し、庁内ポータルやFAQで参照できる状態にしておきます。

生成AIは便利な一方で、運用設計を誤ると情報漏えいや誤った住民対応につながるリスクがあります。技術的な制限と職員向けルールの両輪で進めることが重要です。

自治体導入で押さえるセキュリティ・法令対応

自治体でGoogle Workspaceを導入する際、議会・財政部局・法務部門への説明では、セキュリティと法令対応の整理が欠かせません。ここでは、押さえておきたい6つの論点を解説します。

ISMAP登録済みでも、自治体側の情報資産分類は必要

Google WorkspaceおよびGoogle Workspace契約内で利用可能なGeminiは、政府情報システムのためのセキュリティ評価制度(ISMAP)に登録されています。ただし、ISMAP登録済みであることが「何を載せても安全」を意味するわけではありません。

導入する自治体側では、次の項目を整理する必要があります。

  • 情報資産の分類(公開情報、内部情報、機密情報、個人情報など)
  • アクセス権限の設計(部局単位、職階単位、業務単位)
  • ログ管理の方針(取得対象、保持期間、監査の頻度)
  • データの持ち出し・外部共有のルール

クラウドサービス側のセキュリティ機能と、自治体側の運用ルールを組み合わせることで、初めて安全な利用が成立します。

クラウド上の個人情報も自治体が保有する情報として扱う

行政機関等がクラウドサービス上で個人情報を利用する場合、その個人情報の取り扱いについて整理が必要です。個人情報保護委員会は、行政機関等がクラウドサービス上で個人情報を利用しており、物理的にクラウド事業者の管理するサーバ上に保管されている場合であっても、当該個人情報は「行政機関等が保有している」ものに該当すると説明しています。

つまり、「クラウドに置いたから自治体の責任が軽くなる」とは言えない、ということ。利用にあたっては、アクセス権限、委託先管理、第三者提供の可否、ログ管理を、自治体側のルールとして明確に定義する必要があります。

議会や住民への説明においても、クラウドだからといって自治体の責任範囲が縮小するわけではない点は、重要な共通認識として共有しておきたいポイントです。

日本の公的機関向けの規約改定も確認する

Google Cloudは2026年1月、日本の自治体や公共機関がクラウドサービスや生成AIを活用しやすくするための環境整備として、Google Workspace利用規約の改定を行いました。

公的機関向けの主な改定内容には、次のような項目が含まれます。

  • 準拠法を日本法と明文化
  • 合意管轄裁判所を東京地方裁判所と明記
  • 公的機関の利用を想定した契約条項の整備

法務部門が気にしやすい論点(準拠法、裁判管轄など)を明文化した形となっており、議会・法務・情報政策部門への説明材料として参照できます。

データリージョンは日本国内限定を前提にしない

Google Workspaceには、対象データの保管場所を指定できる「データリージョン」機能があります。ただし、選択肢は次の3つで、日本国内限定の指定はできない点に注意が必要です。

  • 米国
  • 欧州連合
  • 指定なし

自治体の情報セキュリティポリシーで「データは日本国内に保管」と定めている場合、Google Workspaceのデータリージョン機能だけでは要件を満たせない可能性があります。情報セキュリティポリシーや契約要件と照合したうえで、対応方針を整理する必要があります。

監査ログの保持期間と長期保管の設計を確認する

Google Workspaceの監査ログには保持期間が定められています。多くのログイベントデータは一般に6か月とされていますが、メールログ検索など一部のログでは保持期間が異なります。

情報公開請求への対応、定期監査、インシデント発生時の調査などで、6か月を超えるログ保管が必要となる場合は、別途長期保管の仕組みを設計する必要があります。具体的には、BigQueryへのログ出力や、SIEM(セキュリティ情報・イベント管理)製品との連携などが選択肢です。

ログ保持期間と運用上の必要期間にギャップがある場合、後から対応するのは難しいケースもあるため、導入設計の段階で確認しておくことが重要なポイントです。

Geminiに入力した情報の扱いを確認する

Google Cloudは、Google Workspaceおよび契約内で利用可能なGeminiについて、顧客データがGoogleのAIモデルのトレーニングに使用されることはないと説明しています。これは生成AI活用を検討する自治体にとって、重要な前提条件です。

ただし、安心材料として位置づけるにとどめず、自治体側の運用ルールも整備する必要があります。

  • 入力禁止情報の明確化(住民情報、個人情報、未公開情報など)
  • 出力結果を業務に反映する際の確認フロー
  • 利用ログの定期確認、利用範囲のレビュー

また、職員が個人向けのGeminiとWorkspaceアカウント上のGeminiを混同しないよう、研修やガイドラインの中で明確に区別して説明することも重要です。

自治体に向くGoogle Workspaceのエディションと選び方

導入を検討する段階で必ず議論になるのが、エディション選びです。Google Workspaceは複数のエディションがあり、職員数・セキュリティ要件・監査要件によって適切な選択が変わります。ここでは、自治体本庁での導入を前提に、エディションの考え方を整理します。

Google WorkspaceにはBusinessとEnterpriseの系統がある

Google Workspaceの主なエディションは、大きくBusiness系とEnterprise系に分かれます。

  • Business系:Business Starter、Business Standard、Business Plus
  • Enterprise系:Enterprise Standard、Enterprise Plus

両系統の大きな違いの一つが、ユーザー数の上限。Business系は最大300ユーザーまでのプランで、Enterprise系には上限・下限の規定がありません。職員数、扱う情報、セキュリティ要件、監査要件をもとに、自治体本庁にとって適切なエディションを判断する必要があります。

PoC段階、一部部門での試験導入、全庁展開の各フェーズで、適切な選択が変わる点にも注意してください。

300ユーザー以下ならBusinessも候補になる

職員数が300人以下の町村、出先機関での先行導入、PoC(実証実験)などでは、Business系のエディションも候補に入ります。Business系は初期導入のハードルが比較的低く、機能を試しながら段階的にスケールさせていきたい場合に検討しやすいエディションです。

ただし、職員数だけで判断するのは避けたいポイント。次のような要件がある場合は、ユーザー数が少なくてもEnterpriseを検討する必要があります。

  • DLP(データ損失防止)による情報持ち出し制御
  • 高度な監査ログとセキュリティ調査ツール
  • Vaultによる法的保留・データ保持
  • クライアントサイド暗号化
  • Context-Aware Accessによる条件付きアクセス

導入時の費用だけで判断せず、自団体の情報セキュリティポリシーで求められる機能を確認したうえでエディションを選定してください。

全庁導入ではEnterpriseが候補になりやすい

職員数が300人を超える自治体や、全庁規模の導入を検討する場合は、Enterprise系が候補となるケースが一般的です。

Enterprise系を選びやすい理由として、次のような点が挙げられます。

  • ユーザー数の上限・下限がなく、職員数の増減や組織変更に対応しやすい
  • 高度な管理機能・監査ログ・セキュリティ調査ツールが含まれる
  • アクセス制御、DLP、暗号化など、自治体の情報セキュリティポリシーで求められる機能が揃っている
  • 大規模導入を前提とした構成例が公開されている

札幌市、宮崎市、肝付町など、Google公式で紹介されている自治体事例の多くもEnterprise系のエディションを採用しています。全庁規模の運用やセキュリティ要件を考えると、Enterprise系の方が選びやすいケースが多いといえるでしょう。

Enterprise StandardとEnterprise Plusは監査・セキュリティ要件で選ぶ

Enterprise系の中でも、StandardとPlusで利用できる機能が異なります。自治体で意識すべき主な比較ポイントは、次の通りです。

  • DLP(データ損失防止)の対応範囲
  • Context-Aware Accessによる条件付きアクセス
  • Google Vault(eDiscovery、法的保留、保持ルール)
  • 監査ログとセキュリティ調査ツール
  • クライアントサイド暗号化
  • 高度なエンドポイント管理
  • BigQuery連携・SIEM連携による長期ログ保管

監査ログの長期保管が必要な場合、クライアントサイド暗号化が要件に含まれる場合、エンドポイント管理を高度に行いたい場合などは、Enterprise Plusが選択肢になります。

なお、プランごとの機能や料金は変更されることがあります。実際の導入検討時には、Google公式のプラン比較ページや、契約予定の販売代理店に最新情報を確認してください。

自治体でGoogle Workspace導入を進める手順

Google Workspaceの導入は、いきなり全庁展開せず、段階的に進めるのが現実的です。ここでは、導入検討から効果測定までを6つのステップに整理しました。

STEP1:対象業務と扱う情報を整理する

まずは、Google Workspaceに載せる業務と、載せない業務を整理します。

最初の検討対象として向いているのは、コラボレーション領域の業務。具体的には、会議運営、庁内照会、資料作成、スケジュール調整、ファイル共有といった領域が挙げられます。

並行して、扱う情報の分類も整理します。

  • 公開情報・内部情報・機密情報・個人情報の分類
  • 機微情報、マイナンバー利用事務系の情報の取り扱い方針
  • 情報セキュリティポリシーとの照合

ここで対象業務と情報分類を曖昧にしたまま進めると、後工程のネットワーク設計や運用ルール策定で手戻りが発生しやすくなります。最初のステップで方針を明確にしておくことが重要です。

STEP2:先行部門で試験導入する

全庁にいきなり展開するのではなく、先行部門でPoC(実証実験)を行うのが現実的なやり方です。DX推進部門、総務部門、企画部門など、業務改善に積極的な部門から始めるケースが多くなっています。

検証するポイントは次の通り。

  • 職員の操作感、習熟にかかる時間
  • 権限設計、共有ドライブ運用の実用性
  • ネットワーク経由の応答速度や安定性
  • 既存業務(会議資料作成、庁内照会など)との相性
  • 想定外の運用課題の有無

足利市では約半年のPoCと職員トレーニングを経て運用を開始しました。宮崎市のように、段階導入で職員の反応を見ながら展開範囲を広げる進め方も参考になります。

STEP3:ネットワーク・認証・権限・ログを設計する

PoCの結果を踏まえて、本格運用に向けた技術設計を進めます。自治体ならではの論点が多いステップです。

主な設計項目は次のとおりです。

  • LGWAN系・インターネット接続系・マイナンバー利用事務系との接続方式
  • ローカルブレイクアウトの構成検討(該当する場合)
  • ID管理(既存のActive Directoryや人事システムとの連携)
  • 多要素認証(MFA)の方針
  • 組織部門(OU)の設計、共有ドライブのフォルダ構成
  • 外部共有の可否とホワイトリスト・ブラックリスト
  • 監査ログの保存先、長期保管の仕組み

ネットワーク設計やゼロトラスト型のアクセス制御は、自治体ネットワーク構築の実績があるGoogle Cloud正規パートナーやベンダーと連携して進めるのが現実的です。

STEP4:部局単位で段階的に広げる

技術設計が固まったら、部局単位で展開を進めます。先行部門→管理職→企画・総務・財政→出先機関といった順で広げていくケースが多くなっています。

段階展開の際に意識したいポイントは次の通り。

  • 既存グループウェアとの並行稼働期間を設ける
  • 全データを一度に移行せず、優先度の高いものから順に対応
  • 部局ごとの業務特性に合わせた運用ルールの個別調整
  • 部局の責任者がアンバサダー的役割を担えるよう、初期に巻き込む

宮崎市のように、段階導入を前提に進めれば、ユーザー側の反応や課題を反映しながら無理なく展開範囲を広げられます。

STEP5:研修・FAQ・庁内サポート体制を整える

ツールを導入しても、職員が使いこなせなければ効果は限定的になります。研修と庁内サポート体制をセットで整備することが重要です。

整備したい項目は次の通り。

  • 一般職員向けの操作研修(共同編集、Meet、ドライブの基本操作など)
  • 管理職向けの研修(共有ドライブの権限管理、運用ルールの徹底など)
  • 庁内アンバサダー制度(各部署で詳しい職員を育成)
  • FAQ、動画マニュアル、庁内ポータルでの情報提供
  • 問い合わせ窓口の設置と運用フロー

「一部の詳しい職員だけが使う」状態に陥らないよう、組織全体でリテラシーを底上げする仕組みを設計してください。同時に、これまでの紙ベース・対面前提の業務フローも、ツール導入を機に見直すと効果が高まります。

STEP6:導入効果を測定し、庁内説明に活用する

導入後は、効果測定を行い、議会・財政部局への説明や次年度予算要求に活用します。

測定の対象として考えられる指標には、次のようなものがあります。

  • 紙の使用量、印刷枚数の推移
  • 会議時間、Web会議件数
  • 庁内照会の回答時間、回答率
  • ファイル検索にかかる時間
  • 端末のキッティング時間、運用工数
  • 共有ドライブの利用率、外部共有の頻度
  • GeminiやAppSheetの活用件数、活用部門数

定量データだけでなく、職員アンケートで定性的な変化(働きやすさ、業務満足度など)を捉えるのも有効です。これらの数値や声を、議会への説明資料、予算要求資料、住民向けの広報資料に展開することで、導入効果を組織内外に伝えられます。

Google Workspaceを自治体に導入する前のチェックリスト

ここまで解説してきた論点を、自治体担当者が導入検討時に確認しやすいよう、チェックリスト形式で整理しました。庁内会議の資料や、部局横断の検討会の議題として活用してください。

確認項目見るべきポイント
対象業務会議、資料作成、庁内照会、スケジュール、ファイル共有など、どの業務から始めるか
情報資産個人情報、機微情報、マイナンバー利用事務系情報をどう扱うか
既存システムグループウェア、ファイルサーバ、文書管理、電子決裁との役割分担
ネットワークLGWAN、インターネット接続系、マイナンバー利用事務系との接続方式
セキュリティ多要素認証、外部共有、ログ保持、端末管理、アクセス制御
生成AIGeminiに入力してよい情報、確認フロー、職員向けルール
予算ライセンス費用、移行費用、研修費用、既存システムとの重複コスト
効果測定紙、印刷、会議時間、庁内照会工数、端末管理工数などの指標

このチェックリストは、導入の意思決定前だけでなく、PoC開始前、本格導入前、年次の運用見直しの各タイミングでも見返すと効果的です。1回で完璧に整える必要はなく、検討フェーズに合わせて少しずつ精度を高めていく進め方が現実的といえます。

Google Workspaceの自治体導入に関するよくある質問

最後に、自治体担当者から寄せられやすい質問を6つ取り上げ、ポイントを整理します。

Q1. LGWAN系端末からGoogle Workspaceは使えますか?

自治体のネットワーク構成によります。足利市のように、LGWAN系ネットワークからローカルブレイクアウト用の回線を付設して、Google Workspaceに接続している事例もあります。

ただし、すべての自治体で同じ構成が取れるとは限りません。三層分離モデル(αモデル、βモデル、β'モデル)の運用形態や、情報セキュリティポリシーに沿って、自団体に合った接続方式を個別に設計する必要があります。

Q2. 住民基本台帳やマイナンバー利用事務の情報もGoogle Workspaceに載せてよいですか?

一律に載せてよいとは言えません。Google Workspaceは、メール、チャット、Web会議、文書作成、ファイル共有などのコラボレーション基盤として使われるサービス。住民基本台帳、税、福祉、マイナンバー利用事務系といった基幹系の情報処理を担うものではありません。

導入時は、まずコラボレーション領域(会議、資料作成、庁内照会、スケジュール、ファイル共有)から検討するのが現実的です。札幌市が個人番号利用事務系を切り分けて導入したように、基幹系との分離を前提に進めることが推奨されます。

Q3. Google Workspaceのデータを日本国内だけに保管できますか?

標準のデータリージョン機能では、日本国内限定の指定はできません。データリージョンで選択できる保管場所は、米国、欧州連合、指定なしの3種類です。

自治体の情報セキュリティポリシーで「データは日本国内に保管」を要件として定めている場合、Google Workspaceのデータリージョン機能だけでは要件を満たせない可能性があります。契約要件や運用ポリシーと照合したうえで、対応方針を確認してください。

Q4. 監査ログはどのくらい保持されますか?

Google Workspaceの多くのログイベントデータは、保持期間が一般に6か月とされています。ただし、ログの種類によっては異なる保持期間が設定されています。

情報公開請求、定期監査、インシデント発生時の調査などで6か月を超える長期保管が必要な場合は、BigQueryへのログエクスポートや、SIEM(セキュリティ情報・イベント管理)製品との連携を設計に含める必要があります。

Q5. 小規模な自治体でもEnterpriseを選ぶ必要がありますか?

必ずEnterpriseが必要、というわけではありません。職員数が300人以下の小規模導入や試験導入であれば、Business系のエディションも候補になります。

ただし、扱う情報、監査ログ要件、DLP、Context-Aware Accessなどの機能要件によっては、職員数が少なくてもEnterpriseを検討する必要があるケースもあります。Google公式の料金ページでは、Business系は最大300ユーザーまで、Enterprise系はユーザー数の上限・下限なしと案内されているため、職員数と機能要件の両面から判断してください。

Q6. Geminiに入力した庁内情報はGoogleのAI学習に使われますか?

Google Cloudは、Google Workspaceおよび契約内で利用可能なGeminiについて、顧客データが許可なくドメイン外でAIモデルのトレーニングに使用されることはないと説明しています。

ただし、安心材料として位置づけるだけでなく、自治体側でも入力禁止情報、出力結果の確認フロー、利用ログ確認のルールを定めることが重要なポイント。また、職員が個人向けのGeminiとWorkspaceアカウント上のGeminiを混同しないよう、研修やガイドラインで明確に説明することも必要です。

まとめ|段階的な導入で、自治体の働き方とBCPを支える基盤に

Google Workspaceは、自治体における会議資料作成、庁内照会、情報共有、ペーパーレス化、テレワーク、BCP対応を支えるコラボレーション基盤として、活用が広がっています。札幌市、秋田県、足利市、宮崎市、舞鶴市、肝付町など、規模や導入目的の異なる事例がGoogle公式でも紹介されており、自団体に近いケースを参考にできる環境が整ってきました。

一方で、自治体での導入にはISMAP登録の確認だけでは足りない論点があります。LGWAN・三層分離との接続方式、個人情報保護法の整理、データリージョンの仕様、監査ログの長期保管、エディション選定、生成AIの利用ルールまで、自治体側で整理すべき項目は多岐にわたります。2026年1月のGoogle Workspace利用規約改定により、日本の公的機関向けに準拠法と合意管轄裁判所が明文化された点も、議会・法務部門への説明材料として確認しておきたいポイントです。

導入を進める際は、Google Workspaceに載せる業務と載せない業務を切り分け、先行部門でPoCを行い、部局単位で段階的に展開していく進め方が現実的。導入後は、紙の削減、会議時間、庁内照会の工数、端末管理の負担といった指標を測定し、議会や財政部局への説明材料として活用していくことが、次年度以降の取り組みにつながります。


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